日弁連会長に対する質問状

 少し前の話になりますが、10月29日付の日本経済新聞朝刊「法務インサイド」という記事において、『(司法試験に)受かっても職がない? 弁護士飽和に危機感』という表題で、司法試験の合格者が急増しているが弁護士になっても就職先がなく、さらに法科大学院進学者のレベルダウンも危惧されている旨の報道がなされました。

 その報道に、日弁連会長平山正剛氏が、「2010年頃まで就職は大丈夫、政府・与党内に年間3000人合格は多すぎるという機運もあるが、政府が見直そうと言ってきたら、考えなおしても良い」という趣旨と受け取れるコメントをされていました。

 もし、社会がもっと弁護士の数を必要としているのであれば、弁護士が就職出来なかったりすることは考えられません。報道によれば既に就職できなかった弁護士も存在するのに、どういう根拠で平山氏が2010年まで就職問題は大丈夫と考えているのかも理解できません。

 周囲の何人かの若手弁護士に意見を求めましたが、平山氏のコメントは本当に弁護士のことを考えているのかという意見すら聞かれました。すなわち、我々からすれば、あまりにも現実を把握されていないコメントだと思われたのです。

 そこで、私と加藤弁護士は、日弁連会長平山正剛氏に、次のような内容の質問状を送りました。その質問状は、11月8日に平山氏に届いたことが配達記録で明らかになっています。

 なお、回答期限は11月20日と指定しましたが、多忙な平山氏のことですから回答が遅れるかもしれませんし、黙殺されるかもしれません。しかし、平山氏の回答があれば、出来るだけ速やかに当ブログにおいて公開させて頂きますので、その際はご覧下さい。

質 問 状

 去る平成19年10月29日付日本経済新聞「法務インサイド」欄に掲載された、平山正剛会長のコメントに関し、坂野が日弁連としての意見としてコメントしたのか、平山氏個人の意見としてコメントしたのか問い合わせたところ、「取材を基に書かれた記事であり、ニュアンスは別として発言内容と異なるとの認識はありません」とのFAXによる回答を10月31日に得ました。
 結局いずれの立場でのコメントか明確にして頂けなかったのですが、少なくとも発言内容と異なる記事が存在しないという前提で、日弁連会長平山氏に対して当職らは質問致します。
 日弁連会長という立場に鑑みれば、日弁連会員の疑問乃至質問に当然答えるべき義務があると考えますが、仮に平山氏がそう考えないとしても、当職らの周辺の若手弁護士に本件記事について聞いてみたところ、相当数の若手弁護士が平山氏の発言に対して疑問乃至反発を感じています。この点に鑑みても平山氏は、本質問状に答えるべきであると考えます。
 なお、本質問については、当事務所ホームページ(アドレス:www.idea-law.jp)内の当職らのブログに公開させて頂くものとし、平山氏の回答もそのまま公開させて頂く予定です。希望があれば写しを配布することも考えておりますので、ご承知おき下さい。
 お手数ですが、回答につきましては11月20日までに頂けますようお願い致します。また、回答については、誤解を避けるため、日弁連会長としての立場での回答であるのか、平山氏個人としての立場での回答であるのか明確にして頂くようお願い致します。

1 
① いわゆる「ロースクール組」の印象について、「実力が分かるのはこれから。仕事を始めて3年程度は経過を見る必要がある。」とコメントしていますが、どのように経過を観察する予定なのでしょうか。また、3年という経過観察期間の根拠はあるのでしょうか。
② 仮に客観的な測定がほぼ不可能なアンケートくらいしか具体的案がないというのであれば、正確な経過観察など不可能なのではないでしょうか。もともと正確な経過観察が不可能であれば、3年間も経過を見ること自体意味がないのではないでしょうか。
③ 3年経過時点で平山氏は会長を退いていると思われますが、日弁連会長としての問題の先送りなのではないでしょうか。

2 「ロースクール組」に関して、司法研修所教官が第34回司法試験管理委員会ヒアリングの概要において次のように述べていますが、日弁連及び平山氏として把握しているのでしょうか。
・ ビジネスロイヤー志向が強く、刑事系科目を軽視している修習生が多いのではないか。
・ 口頭表現能力は高いと言えそうであるが、発言内容が的を得ているかというと必ずしもそうではない。
・ 教官の中で最も一致したのが、全般的に実体法の理解が不足しているということである。単なる知識不足であれば、その後の勉強で補えると思うが、そういう知識不足にとどまらない理解不足、実体法を事案に当てはめて法的な思考をする能力が足りない、そういう意味での実体法の理解不足が目立つ、というのが非常に多くの教官に共通の意見である。

3 2の内容を当然把握されているとの前提で質問を続けます。
① (当職もロースクール組に優秀な人材が含まれていることを否定するものではありませんが、)大量に合格者を増加させた結果、司法修習生自体が「その後の勉強でも補えるレベルの知識不足ではない」と司法研修所教官が指摘する者が多数含まれる集団となったことが明らかになりました。そのような修習生の集団の大多数が弁護士となりますが、「その後の勉強でも補えるレベルの知識不足ではない」修習生が、3年程度の経験があれば弁護士として立派に通用するようになると日弁連及び平山氏は本気で考えているのでしょうか。
② 仮にそのような修習生でも3年間の経験で一人前になると仮定したとして、経験を積むのに必要な3年間に、知識不足の法律家によって弁護過誤が発生する可能性がこれまで以上に高まる(特に現に存在する就職難から、いきなり独立する者が増加することが考えられ、その場合の危険度は更に高まると思われるが)ことを、日弁連及び平山氏としてはどう考えているのでしょうか。

4 また、第34回司法試験管理委員会ヒアリングの概要において法科大学院関係者が第1期は特に優秀な学生が集まったとコメントしているが、その特に優秀な第1期生でも司法研修所教官によれば質問2で記載したレベルの者が多いとされています。第1期に特に優秀な学生が集まったということは、今後法科大学院の学生の全体的レベルが下がることは明白であると考えられると思います。
① 当職は現に法科大学院教員の複数から、法科大学院の学生のレベルダウンが著しいと聞いたことがありますが、日弁連及び平山氏は、法科大学院の学生のレベルダウンが生じているか否かについて事実を把握しているのでしょうか。またその把握する手段はどのような手段なのでしょうか。
② さらに法科大学院進学を希望する者が減少し始めている現在、法曹の質をどう維持していくつもりなのでしょうか。希望者が集まらない以上、法曹人口増加をある程度抑制し、競争の程度を高める以外に解決する方法はあるのでしょうか。
③ 法科大学院制度は、法律家を粗製濫造するための制度ではなく、質の高い法律家を多く輩出するための制度だったはずですが、司法研修所教官もあきれる程レベルの低い修習生が生じているのは法科大学院制度の失敗なのではないですか。

5 
① 法科大学院進学希望者が減少傾向にあることは、法曹に魅力が無くなりつつあることの証明であると考えるのが自然だと思いますが、日弁連及び平山氏としては、法曹の魅力が失われつつある原因が、法曹人口の爆発的増加による将来への不安であるという可能性はあると考えていますか。
② 考えているならば、それに対する具体的な対処方法はどのように考えているのでしょうか。
③ 考えていないのであれば、法科大学院進学希望者の減少の理由をどう説明できるのでしょうか。
④ 法曹に魅力を取り戻す最も効果的な解決は、法曹人口爆発的増加の抑制による法曹の生活安定と職域確保にあると当職は思いますが、その他に法曹に魅力を取り戻す方法があると考えているのであれば、その理由と根拠を明確に示して説明して下さい。

6 
① 実際に旧60期で就職できなかった修習生が存在する(報道による)ことについて、日弁連及び平山氏は知っていますか。
②(就職問題について)2010年まで大丈夫という平山氏乃至日弁連の認識がすでに現状を把握できていないことの表れではないかと思われますが、2010年まで大丈夫というのであればその根拠は何ですか。具体的にお示し下さい。
③ 大丈夫であれば、なぜ就職できない修習生が発生したのか。具体的に説明して下さい。
④ また、2010年まで大丈夫なのであれば、記事に出ていた日弁連弁護士業務総合センター副本部長の「採用枠を前倒しで使った形で来年以降は厳しい」というコメントとの整合性がとれていないのはなぜですか。

7 
① 日弁連の企業・官庁での新たな就職先確保の努力にどのような努力が払われ、どれほどの具体的成果が上げられているのか明確に示して下さい。
② ちなみに当職の知り合いの企業内弁護士からは、とても弁護士大増員を吸収するだけの企業による雇用は見込めないと聞いていますが、企業・官庁の弁護士雇用に関する現状乃至見込みについて、どのように把握しているのか、具体的に示して下さい。
③ また、企業が即戦力として社会人経験者を求めているとしても、現状の研修制度に加えて如何なる研修体制の充実で対応するつもりなのか具体的に示して下さい。
④ さらに、どの程度の研修で企業が即戦力として認めてくれるのか明確な基準があるのか示して下さい。
⑤ 仮に即戦力としての社会人経験者を企業・官庁が求めているとしても、そのニーズ(採用予定人数)はどの程度のものか日弁連として把握しているのか。またその根拠は如何なるものか。企業・官庁のニーズを把握しているとして、如何なる根拠に基づいて現在から今後も続く爆発的法曹人口増加を吸収するだけのニーズがあると判断しているのか明確に示して下さい。

8 「法曹年間増加人数3000人見直し機運が政府にあるが」との質問に対し、平山氏は閣議決定、法科大学院や裁判員制度を理由に10年単位の長い目で改革を見る必要があるとコメントしています。
① そもそも閣議決定を行った政府自体に見直し機運が出ているにもかかわらず、その当時の閣議決定を墨守しようとする理由は何ですか。
② 閣議決定を行った政府内部にすら見直しの機運が出ているということは、当時の閣議決定に過ちがあった可能性が高いからと思われますが、それにも関わらず当時の閣議決定を、(今後就職できない弁護士、就職できても低い給料で働くことを余儀なくされる弁護士を多数生じるとがほぼ確実な状況で)維持しようとする理由は何ですか。換言すれば、その当時の閣議決定を、若手弁護士に犠牲が生じ、弁護士全体を危機に陥らせる危険が明らかになっている現在でも貫かなければならない根拠はどこにあるのですか。
③ 現に新人弁護士の弁護士会費負担軽減を提言している日弁連の態度は、根底には弁護士過剰時代が到来したため新人弁護士の待遇が悪化し、高額な弁護士会費の負担にあえぐ新人の負担軽減にあったと思われますが、その日弁連の態度と、より一層弁護士過剰を招く法曹人口年間3000人増員容認態度とは矛盾しないのですか。
④ 就職に関し、ノキ弁を勧めてみたり、若手向けに「弁護士のための華麗なるキャリアプラン挑戦ガイドブック」などという、今までの弁護士以外の道を勧める日弁連の態度と、より一層弁護士過剰を招く法曹人口年間3000人増員容認態度とは矛盾しないのですか。
⑤ 就職問題に関し、平山氏自身2010年までは大丈夫という発言をしているようですが、裏を返せば就職問題に関して極めて甘い見方をしている平山氏ですら2010年以降の就職問題は困難があるということを認めているのではないですか。2010年以降の就職問題をどうするつもりなのですか。
⑤ それにも関わらず直ちに法曹人口増加にストップをかけない理由は何ですか。特にその法曹人口増加ストップに関するイニシアチブを政府に委ねるかのような態度は日弁連会長としての責任放棄ではないですか。
⑥ また法科大学院や裁判員制度が出来たことが、なぜ10年単位の長い目で改革を見る必要につながるのですか。
⑦ 現に研修所教官があきれる程低レベルの修習生が大量に生じている現実が存在するにもかかわらず、10年単位の長い目で見るという理由で放置する根拠は何ですか。
⑧ 仮に何らかの理由があり10年間放置したとして、低レベルの弁護士が氾濫した社会において、司法への信頼をどのように維持していくのですか。

9 平山氏は3000人増員方針を見直すには(司法改革の)十分な検証が必要と述べておられます。
① 十分な検証とは何をどのように検証するのですか。具体的な検証対象・検証内容・検証方法について明確に説明して下さい。
② 「改革が十分に達成されれば無理に増やす必要はない。」と述べておられますが、改革が十分に達成された状態とは、何がどのように達成された状態なのですか。またその検証方法な具体的にどのような手段で、なにをどう判断するのですか。

平成19年11月7日

日本弁護士連合会 会長 平 山 正 剛 殿

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