朝日新聞の社説

 富山県でのえん罪事件に関して、朝日新聞の社説で書かれていました。その副題として、「弁護士の責任も重い」と大書されています。社説を書かれた方が弁護士の責任として指摘されていると思われる部分を以下に引用します。

(前略) 

 当時の弁護活動にも重大な問題がある。接見で否認していた男性が再び自白に転じたことに、国選弁護人はなぜ疑問を持たなかったのか。そもそも被告の言い分に十分耳を傾けたのだろうか。

 弁護士は被告の権利を守るのが仕事だ。その責任を果たしたか疑わしい。

(後略)

(2007.10.12付朝日新聞朝刊、社説欄より部分的に引用)

 私はこの事件の詳細は把握できていなのですが、いきなり「当時の弁護活動に重大な問題がある。」と断言する社説執筆者には驚きました。重大な問題があると断言する根拠はなんだろうと思ってその後を読んでみると、「疑問を持たなかったのか」「十分耳を傾けたのだろうか」と弁護活動に重大な問題があった根拠を示す事実ではなく、執筆者の疑問だけを記載しているのです。

 確かに、社説執筆者が当時の弁護人に確認を取るなどして、「明らかにおかしい状況にありながらなんの疑問も持たず漫然と弁護活動をしていた事実があった」とか、「被告人が弁護人に対して無罪主張をしているにもかかわらず弁護人が無視した事実があった」という裏付け事実があれば確かに弁護活動にも重大な問題があった可能性が出てきます。

 しかし、社説にはそのような裏付け事実は一切記載されていないので、事実に基づかず一方的に「弁護士の責任も重い」と社説執筆者は結論づけているように読めます。極論すれば、「事実はどうか分からんが、何となく変な気がするから責任があるに決まっている」と決めつけているように受け取れるのです。

 社説はあくまで会社の意見でしょうから、会社がそう考えたと言われればそれまでです。しかし、マスコミは世論形成に多大な影響力を持っています。その影響力あるマスコミが、会社の意見としてある職業を非難されるのであれば、確たる根拠に基づいて非難するのが筋ではないでしょうか。

 そして何より、えん罪の最大の原因(自白強要や人質司法、裁判所の書面偏重など)を問題視し、世論に訴えて改善につなげていくことが最も肝要なのではないでしょうか。

ps 蛇足ですが、前もブログに書いたとおり、「被告人」と「被告」は、全く異なる概念です。刑事事件で訴追されている人は「被告人」です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です