論文式試験の心構え

 前回のブログで、論文式試験で司法試験考査委員が何を見ているかについて、簡単に説明いたしました。

 しかし、私の経験から言うと、実力者であっても 論文式試験で必ず合格できるとは限りません。身につけた実力が素直に発揮できるとは限らないからです。

 そこで、今回は、論文式試験に臨む心構えについて、私の体験から得たものを説明したいと思います。

 私の、結構な回数の受験歴から考えれば、論文式試験に臨む心構えとしては、①自分を飾らない、②絶対に逃げない、③試験委員を思いやる、この3点に尽きるのではないかと思います。

 ①自分を飾らないということですが、論文式試験では何とかして、試験委員に自分の実力を評価してもらいたいあまり、背伸びして自分の実力はもっと上なのだと表現したくなることが多いと思います。しかし、どんなに知識を披瀝して自分を飾ってみても、本当の自分の実力が上がるわけではありません。それどころか多数の答案を見る試験委員からすれば、これは分かったふりをしているなと簡単に見透かされることがほとんどでしょう。そうであれば、無理に自分を飾らず、本当の自分の実力を素直に見てもらおうと考えて試験に臨んだ方が、より素直に実力を発揮でき、また、不要な論点まで書いて墓穴を掘る最悪な事態を避けうる場合が多いと思われます。仮に自分の実力を偽装して合格しても、研修所の2回試験に合格できなくなるかもしれませんし、そこをすり抜けても将来弁護過誤で大きな問題を起こしてしまうかもしれません。そうであれば、なおさら、素直に実力を見てもらった方が良いと思うのです。

 ②の絶対に逃げないということですが、これは、論文式試験の問いに答える上で、決して逃げないということです。どんな受験生でも完璧に勉強を完了している受験生などいません。誰もが弱点を持ち、知らない論点を持っているものです。ですから、論文式試験の12問のうち、誰しも必ず、何問かについては、「しまった、やっておかなかった」「もう少し復習しておけば」等という問題に直面します。その際に、よく知らない少数説なら簡単に書けたような気がするので少数説に乗り換えようとか、この論点を知らんふりして通り過ぎれば良いのではないか、という誘惑にかられることもあります。しかし、そこで逃げるべきではないと思います。少数説で簡単に書けるとしても、今まで自分がとってきた説で堂々と不都合を手当てしながら主張すれば足ると思いますし、答案に迫力が出ると思います。また、知らんふりして逃げるのは、そもそも問題点すら把握できないのかと思われる危険があります。幸い、受験生には条文という最強の味方がいます。法律問題の出発点は条文ですから、その条文を使って、必死に戦うべきだと思います。

 ①・②の結果、「この問題について、私なりに妥当な結論を導こうと全力で考えた結果、このような答案になりました。今の私はこれ以上でも、これ以下でもありません。この私の答案で不合格であるというのであれば、私の実力不足なので仕方がありません。しかし、私は法曹になりたいという強い意志を持っており、合格させて頂いた後は更に精進して立派な法曹になります。決してご期待を裏切ることはありません。」というような心境で受験できれば、かなり実力を素直に出せるのではないかと思います。

 ③の試験委員を思いやるということですが、言い換えれば、できるだけ読みやすくわかりやすい答案を書くことです。真夏の暑い盛りにたくさんの答案を読まされる(読みたくて読むわけではなく、読まされるという心境だそうです)試験委員の苦労を考えると、受験生としては一読即解の答案を当然目指すことになります。文字の上手下手は仕方がありませんが、下手でも読みやすい字を書くように心がけることです。また、細字のペンを使うか太字のペンを使うかで読みやすさが異なりますから、他の人に読んでもらって、読みやすいペンの字を使うべきです。

 上記のことはあくまで私の経験から出たもので、全ての方に妥当するとは限りませんが、何らかの参考になればと考えております。 

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