司法試験知識習得法(短答式試験編)

 私が講義を受け持っている関西学院大学の司法特別演習Bの学生さんにも、法曹を目指す人が半分近くいます。

 そのうち何人かから、短答式試験に向けて、知識がまだついていないのですがどうしたらよいですか、と質問を受けることがありました。

 基本3科目(憲法・民法・刑法)のうち、おそらく初学者の方が知識不足を感じられるのは、民法・刑法各論ではないかと思います。知識を身につけるためには、結論的には司法試験短答式試験問題が非常に優れています。

 本来であれば、基本書で大まかな法律の概要を捉え、どの知識がどの部分に該当しているのかを考えつつ知識を習得することが本筋なのでしょうが、もう時間がないという方には、短答式試験の過去問が非常に大きな武器になります。

 短答式試験問題は、司法試験委員が長年にわたって出題してきた良問であり、これだけは分かっていて欲しいと考えている部分がほとんどです。逆に言えば、過去問を完全に解ける受験生は、司法試験委員が分かって欲しい部分を理解しているわけですから、落とされるはずがないと考えることもできるはずです。予備校の問題集を解くくらいなら、過去問のほうが間違いなく力がつきます。

 知識不足の方は、短答式試験問題をみて、問題の肢ではどの部分が一番問題になりそうか、あたりをつけたら、解答をすぐ見るという方法をとることも一つのやり方でしょう。但し、何もあたりもつけずに解答を見ても問題意識を持っていませんから、頭に入りませんのでご注意下さい。

 確かに全体構造を把握してから部分的な論点を押さえるやり方はオーソドックスですが、ある程度知識がないと全体構造すら把握できない場合もあります。英文解釈をする際に文法は大事だが、単語がわかると文章の意味が分かり、それを続けていくと何となく構文も分かる場合があるという経験をされた方もいるでしょう。それと似ています。 

 過去問だけでも膨大ですが、何度も繰り返して解いているうちに、物凄いスピードで解けるようになります。私の受験時代では、試験直前には短答式試験問題S56年以降の全問題を、1科目1日で十分解けるようになっていました(実際には二日で三科目を回していました)。

 ただし、過去問は完璧に解けるけれども、どうも短答式試験に合格しないという人は注意が必要です。そのような方は、答えを暗記してしまっており、問題を解いているのではなく解答を出すだけで満足している可能性があります。問題を解く以上は、その肢を選ぶ根拠・選ばない根拠まで頭の中で考えてから、その解答肢を選ばなくてはなりません。しかし、これは意外に骨が折れます。人間は弱いもので、練習であったとしても間違いたくないという心理が働きます。その心理が強く働くと、問題を解いているのではなく、暗記した解答をはき出しているだけであっても、そのことに気づけません。

 例えば、何度も過去問を解いていると、問題を見た瞬間、この問題の答えは〇だな、と分かってしまいます(そのレベルまでいっていない方は、明白に勉強不足ですのでもっと時間をかけて過去問を勉強して下さい)。しかし、答えを〇と出すことが過去問を解く目的ではありません。過去問で問われている知識が身に付いているかどうかが問題のはずです。ですから、問題を見て仮に答えが〇だ、と分かったとしても敢えて、選択肢1は条文〇〇〇条〇項の~~という文言に明らかに反しているので誤り、選択肢2は最高裁判例に反しているので誤り、選択肢3は・・・・・・というように頭の中でその選択肢を判断する過程を明らかにしながら、根拠をもって解答するよう心がけることです。

 このように過去問を解けるようになれば、短答式試験は恐れる必要はありません。みんなが過去問をつぶしたらどうなるのだという質問をされる方もいますが、過去問をそこまで何度も繰り返し解いて、過去問の要求する知識を身につけることだけでも大変です。そのレベルをクリアーして、やることがなくなったら初めて次の課題を考えればいいのではないでしょうか。私の経験では、次の課題を考えるまでもなく短答式試験には合格してしまうと思いますが。

 ※但し、勉強方法は個人によって大きな差がありますから、自分にあった方法を探すことが一番です。あくまで参考として、記載していることをお忘れなく。

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