新型コロナウイルス特措法案と日弁連~2

(昨日のブログの続きです。)

 ここで話を戻すのだが、新型コロナウイルス特措法案で、法テラス適用要件を緩和するということは、経済的にさほど困っていない人でも法テラスを利用できるようにしようということだ。

 法テラスを利用することにより弁護士費用が抑えられるのであれば、多くの人は健全なそろばん勘定をした上で、利用可能であれば法テラスを利用するはずだ。現に「弁護士費用を安くする裏技」などとして、法テラス利用がインターネットで紹介されていたりすることからも、法テラス利用者が激増することはほぼ間違いあるまい。

 これは、弁護士業界に、提供する法的サービスに応じた報酬が得られない仕事が激増することと、同義である。また、多くの国民の皆様に弁護士費用の内的参照価格を大きく引き下げてしまう(弁護士費用は法テラス基準が普通であり、通常の弁護士費用の方を常に高価だと多くの方が感じてしまうようになる)というデメリットもある。

 野党の新型コロナ特措法において、法テラス基準の緩和を日弁連の方から申し出たという情報が事実なら、日弁連は、新型コロナウイルスで打撃を受けた人は被害者であり、被害者は救済してあげなければならない、とお人好しにも考えたのであろう。その意気やよし、である。
 しかしその考えは、裏を返せば弁護士業界にペイしない仕事を大量に導入させ、かつ将来の顧客の減少にもつながる愚策でもある。

 もっと解りやすい言い方をすれば、日弁連は、新型コロナウイルスで打撃を受けた人の生活や財布は心配してあげようとしたが、高い会費を支払って日弁連を支えている弁護士それぞれの生活や財布は心配しなかったのだ。

 もちろん弁護士が、特権的に保護され、全員が経済的に豊かであり、老後も含めて生活していくのに何の心配もない、という牧歌的な状況であれば、そのような夢物語を語っても許される場合があるのかもしれない。

 しかし現実は違う。

 法曹需要が伸びない現状を無視して弁護士の激増政策を継続した結果、弁護士の所得は減少の一途をたどっている。

 日弁連の弁護士白書によれば、2006年と比較して、2018年の弁護士の所得の平均値・中央値とも半減している。最も多い所得層は、所得200万円以上500万円未満である。弁護士には退職金もない。健康保険は国民健康保険で、年金も国民年金(平均支給額月額5万5千円)だ。もちろん会社が半額負担してくれるわけでもない。
 そして、今後、急に訴訟社会が到来する等、弁護士需要が激増するとの見込みも全くない。

 このように、自らの将来の生活を見通すことすら大変な状況で、日弁連執行部は、なお、弁護士は弱者を救えと言い張ったということなのだ。

 私にいわせれば、アホとしかいいようがない。

 やってることが完全に逆だからだ。

 他人の財布を心配できるのに、日弁連を支えている、所得急減中の会員達の財布を心配できないのは愚の骨頂である。日弁連執行部は、弁護士が金のなる木を持っていると勘違いしているのかもしれないが、日弁連執行部にお勤めのエライ先生方と違って、普通の弁護士は金のなる木などもっていないのである。

 日弁連は弁護士から会費を取って運営しているのだから会員である弁護士を守らなくてどうするというのだ。

 理想を追うのも結構だが、きちんと足下(会員の状況)を見た上で、できれば多くの国民の皆様の利益に沿う方向で、かつ、弁護士にとって利益のある提言をするべきだ。
 いくら弱者救済の理想を掲げても、経済的裏付けのないボランティア仕事を増やすことは弁護士制度の将来的な維持存続にとっても百害あって一利無しである。

 また、日弁連や弁護士会が掲げる理想が国民の皆様の意向に沿っていない可能性だってある。これまでも日弁連は理想に燃えて人権のため、社会正義のためと称して弁護士に負担をかけてきた。市民のためにと、大阪弁護士会が公設事務所として設けた大阪パブリック法律事務所(通称大パブ)もその一つである。

 私とて大パブの意義を否定するものではないが、これら弁護士らの努力が国民の皆様方の意向に沿っていて評価を受け、弁護士・日弁連等に感謝してくれているのであれば、もっと一般社会から日弁連や大パブに寄付が集まってもおかしくないはずだ。大学などに何十億円も寄付する実業家が存在するのだから、現実に社会のお役に立つ行動をとっていたのなら日弁連だって、大パブだって寄付の対象になってもおかしくはないだろう。

 ちなみに大パブは15年間で5億8800万円の自腹を大阪弁護士会に切らせたが、人権擁護などを主張するマスコミや、実業家などから大パブに高額の寄付金支援があったという話は、私は聞いたことがない。

 それでも、日弁連執行部が特措法を推進するなら、提案がある。特措法推進によって、仮に法テラス適用要件が緩和されたのであれば、日弁連執行部にいらっしゃる先生方、およびその賛同者の方々で、その仕事を(もちろん法テラス基準で)担当してもらいたい。

 口が悪い私に言わせてもらうなら、執行部の先生方は、勝手に理想をぶち上げておきながら、その理想実現という困難な問題を若手など他の弁護士に丸投げしているように思えることがある。

 その昔、弁護士過疎の問題が出た時に、若手に過疎地に行けと号令をかけたり、過疎地に行ってくれる弁護士の援助方法を検討している執行部の先生方はたくさんいたが、自ら過疎地に行こうとする先生はいなかった。

 私も、かなり前であるが、大阪弁護士会の常議員会で、弁護士過疎の対策が必要と力説する某会長に向かって「そんなに過疎対策が必要なら、会長や会長経験者が出向けば解決するでしょう。過疎地も会長まで務めた立派な先生が来てくれたらとても喜ぶでしょう。」と申しあげたこともあるが、結局、過疎地対策の必要性を力説する会長経験者が過疎解消のため自ら過疎地に出向いた例を、寡聞ながら知らない。
 

 日弁連は理想を追う前に、まず足元をきちんと見るべきだ。業界全体で見たときに、わずか10年ほどで所得が半減し、さらに弁護士増員が止められず、新たな需要も見いだせていないという危機的状況に目を瞑った状態で、どんなに気高き理想を唱えそれを追っても、現実は(そして会員も)、日弁連執行部の後に、ついていけないのである。

 いい加減に目を覚ましてもらいたい。

 あなた方と違って、普通の弁護士は金のなる木を持ってはいないのだ。
 会員のための施策を行わないのであれば、いずれ日弁連は瓦解する可能性が高いだろう。

 賢明な方には、既にその足音が聞こえているはずだ。

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