新型コロナウイルス特措法案と日弁連~1

 新型コロナウイルスに関連して野党が特別措置法を提案しているようだ。特別措置法の中に、法テラスの適用要件緩和が盛り込まれており、しかもその適用要件緩和について、日弁連が提案したという情報が流れており、弁護士の中で問題視されているように思う。

 ご存じの方も多いと思うが、法テラスは経済的な理由で法的サービスを受けられない方に、その費用を立て替えたりする制度である。

 その話だけ聞けば、法テラスとは経済的弱者を救済する素晴らしい制度と思われるかもしれないが、実際に法的サービスを提供する弁護士としては、手間ばかりかかり、しかも(通常事件に比べて)弁護士報酬の減額を強いられる、ひどい制度なのである。

 何の理由か分からないが、法テラスの弁護士報酬基準は、相当低く定められている。

 しかも、法テラスの弁護士報酬が普通に生活できる水準であれば、文句もいわないのだが、実際には法テラス報酬基準が低すぎてそのような報酬で事務所を維持し、生活するのは、ほぼ無理である。仮に法テラスの報酬基準で生活しようとすれば、多くの案件を受任した上で、相当手を抜いた業務をしないと不可能であろう。

 自らが提供する法的サービスに見合った報酬が頂けないとして、法テラスと契約しない弁護士が相当数存在することからも、その事実は明らかだ。

 この点、医者だって経済的に困っている生活保護の人の医療費を無料にして診療しているじゃないかという人もいると思うが、医師がボランティアで無料にしているわけではない。後で国が医師にきちんと医療費を支払っているのだ。
 医師の方は、そもそも制度がしっかりしていて、健康保険適用の医療行為でも、十分生活できるだけの報酬が確保されている。むしろ、何か問題を起こして、健康保険適用資格を剥奪されると、たちまち死活問題になる医師の方が多いのだ。

 ぶっちゃけいえば、法テラスは経済的に困っている人に対し、正規の弁護士費用ではなく、ダンピング価格で法的サービスを提供せよ、という制度であり、弁護士の善意がなければ到底成立しえない制度なのである。

 既に弁護士は、ずいぶん前から、刑事事件に関して、国選弁護というダンピングサービスを強いられてきたが、それに加えて民事事件においても法テラスというダンピングサービスを背負い込んだのである。

 私は、ずいぶん前から法テラス基準は低すぎて、他の事件の弁護士報酬の引き下げにもつながるとして、反対してきたし、あまりにひどい支給しかされなかった場合に異議を申し立てたこともある。

 とはいえ、私自身、国選事件は100件以上こなしたはずだし、法テラス案件も少ないながら引き受けることもある。自分でもお人好しだと思うが、司法修習時代に税金で育ててもらったという思いや、困っている人のお役に立ちたいという思いが消えてしまったわけではないからだ。とはいえ、経済的に困れば、当然ながらペイしない案件を引き受けるのは無理である。

 確かに、マスコミが大好きな「弱者への配慮」という点は、弁護士の使命である「社会的正義の実現」にも関係するので、忘れてはならない。しかし、問題は提供する法的サービスに見合った適切な報酬が確保されているのかという点である。適切な報酬が見込めない仕事はいずれ破綻する。理想は現実に勝てない。継続的に適切なサービスを提供するためにも、提供する仕事に見合った報酬は必要なのだ。

 例えば、政府がマス・テラスなる制度を設け、「経済的に困っている人でも知る権利は大事である。そのためには経済的に困っている人に対して、5割引で新聞や週刊誌を販売せよ。その負担はマスコミが負うこと。」と命じたら、どのマスコミも大反対キャンペーンを展開するだろう。そして反対にも関わらず導入されたら、多くのマスコミが破綻しかねない状況に追い込まれるであろう。おそらくそれは他のどの業界でも同じである。

 このように、私に言わせれば、資本主義社会ではあり得ない話が、何故かまかり通っているのが、法テラスという制度なのである。

(続く)

私、怒ってます(ミュンヘン:クローネサーカス)

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