法科大学院等特別委員会議事録から

 中教審の法科大学院等特別委員会の最新議事録で、菊間委員がおもしろいことを述べている。

(前略)今年も複数の社会人から相談を受けましたけれども,その中でロースクールに行くメリットは何と聞かれたときに私が答えているのは,エクスターンですとか,クリニックですとか,模擬裁判とか実務につながるような経験ができるということと,ロースクールにいるときから,裁判官や,検事や,弁護士と触れ合う機会がものすごく多くて,その中で実務,働き方が具体的に明確になるというところとお話ししています。また,ロースクールで知り合った先生方と弁護士になった後も仕事をしていることもたくさんあるので,そういう人脈づくりみたいな,人脈という言い方がふさわしいかどうか分からないんですけれども,そういうこともロースクールのメリットかなと。(後略)

 以前ご紹介した、菊間委員の発言内容「社会人から相談を受けたときに予備試験を勧めている」が、かなり衝撃的発言であったことから、今回はかなりトーンを落としてロースクール擁護に回っておられるように読めなくもない。

 それはさておき、菊間委員のご主張通り、実務家との接点と働き方が明確になるという点がロースクールの魅力だとすると、それは、従前の司法修習で十二分に果たされていた点であり、敢えてロースクールを設ける必要はないことになると私は考える。

 私の経験した実務修習では、裁判所・検察庁・弁護士会、いずれでも素晴らしい実務家の先生と一緒に事件を検討し、討論し、一流の実務家のスゴ技を目の当たりにして自らの未熟さを痛感するなど、エクスターンやクリニックのようなまねごとではなく、修習担当の先生が実際の事件という真剣勝負の中で一緒になってハンドメイドで教えてくれる貴重な体験が可能だった。

 私の時代に比べて、現状の司法修習期間では短すぎて実務家との接点が少なすぎるのでダメだとの反論が考えられるが、それなら期間を延長して司法修習を充実させればよいのである。

 実がなるかどうかわからない(司法試験に合格できるかどうかわからない)種モミ全てに、税金を投じて法科大学院教育を施しても、実がならない種モミにかけた税金は相当程度無駄になる。

 この点、法曹にならなくても、ロースクールでリーガルマインドを身につければ社会のお役に立つはずだ(だから税金の無駄遣いではない)との苦しい反論も考えられるだろう。しかし、現在の社会ではロースクール卒業生に与えられる法務博士の肩書が就職に役立ったとか、法務博士に限って採用したいという話が聞こえてこない(少なくとも私は、聞いたことはない。むしろ一部の上場企業法務関連担当者から、大きな声では言えないがロースクール卒業生はプライドだけ高くて使いにくいから採りたくないという話を複数聞いたことがある。)。

 つまり法務博士の資格は社会的に評価を得られておらず、極論すれば何の意味も持たないことからみても、ロースクール教育それ自体に、実社会が何らの価値を見出していないことは明らかある。したがって、ロースクール制度が税金の無駄遣いであることは、少なくとも私から見れば火を見るより明らかなのである。

 それに比べて、旧制度のように、司法試験を突破して生育可能性を示した早苗を選別し、その早苗にお金をかけて実務家に育てるほうが当然効率がいいし、仮に修習期間を延ばしたところで法科大学院に投じる税金より安く済むはずなので、税金の無駄も省かれるだろう。

 それでも、プロセスによる教育を受けなければ法曹としてダメだとロースクール擁護派が主張するのであれば、その証明をしてほしい。すでにロースクール開校から20年近くたっているのだから可能なはずだ。

 しかし、その証明はできまい。

 ロースクール擁護派の学者・実務家が言うように、もし本当にプロセスによる教育が法曹に必須なのであれば、予備試験合格ルートの司法修習生は、実務家になった後に、問題を起こしているか、実務界から忌避されていてしかるべきだ。

 ところが現実は違うのだ。

 むしろ大手ローファームが予備試験合格者を囲い込んでいたり、裁判官、検察官に予備試験ルートの修習生が相当程度採用されている事実からすれば、「プロセスによる教育」などという得体のしれないお題目に、実務界は何ら価値を置いていないことは明白である。ロースクール擁護派の弁護士がパートナーを務める法律事務所が、予備試験合格者を囲い込むような募集を行っているという、冗談のような話も散見されるのだ。

 そうだとすれば、いくら声高に必要性を叫んだところで、実務界では一顧だにされないプロセスによる教育を、なぜ多額の税金を投入して継続する必要があるのか、という素朴な疑問にたどり着くことになる。

 この素朴な疑問に対する、私の解答は極めて単純だ。

 法科大学院及び(文科省を含む)関連者の、既得権維持、これしかあるまい。

 こんなことで多額の税金を無駄に使い、法曹志願者を激減させて法曹の質を低下させた法科大学院制度は、根本的に間違っているとしか言いようがないだろう。

 ちょっと脱線が過ぎたので、本題に戻ろう。

 菊間委員によれば、ロースクールで人脈づくりができたとのお話だが、多くのロースクール卒業生が菊間委員のように、知り合った先生方と一緒に仕事がたくさんできるような人脈を構築できているとは思えないし、少なくとも私の知る限りでは、ごくまれな特異な現象だというほかない。
 おそらく、それは菊間委員の個人的属性に基づいて生じた結果ではないかと考えられるのであり、それを法科大学院のメリットとして一般化することは困難であろうと思う。

(続く、かも)

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