喧嘩はいつでもできるもの

 私が弁護士になった頃と比べての実感だが、最近は、内容証明郵便や、訴訟での準備書面などでやたら攻撃的な書面を書いてきたり、電話での話し合いの際に極めて高圧的な態度をとる弁護士さんが目立つ気がする。

 意味もなく高圧的な態度で相手方に接することは、とくに弁護士が相手方代理人として就任した場合は、あまり良い結果につながらないように思われる。

 ある事件で、不法行為的な迷惑行為をしてしまった加害者側に対し、被害者側弁護士が極めて高圧的な態度をとってきたことがあった。
 私は加害者側からの依頼を受けていた。
 依頼者から聞き取った話と録音などの事件の証拠等からみれば、仮に訴訟提起されても相手方からの不法行為の立証は極めて困難だろうと考えられる案件だった。

 私は、依頼者の話が事実であれば、訴訟になっても恐らく負ける可能性は低いことを示したうえで、依頼者と協議の結果、それでも相手に迷惑をかけたことは事実なのだから相応の賠償を考えよう、という方向性で一致し交渉を始めた。

 ところが、相手方弁護士(最初の弁護士は解任され、経験の浅い弁護士が次に就いた)が何ら証拠に基づかず、極めて高圧的かつ首尾一貫しない書面をいくつも送り付けてきた。
 私は、遠回しに相手方弁護士の主張の問題点を指摘して、そのような態度に出るべきではないことをやんわりと諭した(「○○先生の△△というご主張は、~~という証拠に鑑み、事実と相違した、いささか勇み足のご主張であり、相当ではないと思料いたします。」程度の書面)が、効果はなく、例えていうなら「おまえ、被害者と弁護士様に向かって何言うとるんじゃ」と言わんばかりの書面が続いて届くことになった。

 そのような失礼な書面を連発されたことが主な原因で、当方の依頼者が話し合いをすることに最終的に賛意を示さなくなってしまった。
 したがって、相応の金額での和解が可能だったにも関わらず、結局和解はできなくなってしまった。そして、私の見立て通り不法行為責任を追及する訴訟も提起されてこなかった。
 結局、余計なことを弁護士がしたため、相手方は相応の賠償を受けそびれたのである。

 おそらく、相手方弁護士は、自分の依頼者が被害者なのだから、それを前面に押し出せば有利になると単純に考えていたのではないだろうか。そして、訴訟しても勝てると安易に思いこんでいたか、被害に関する証拠の精査を怠って訴訟になった場合のことまで考えが及んでいなかったか、のいずれかではないかと思われる。
 残念なことに、そのような高圧的な書面を書く弁護士のほうが、依頼者が「よくぞ言ってくださった!」と胸のすく思いがするためなのか、交渉段階での依頼者受けは良かったりするのである。

 確かに弁護士も客商売だから、依頼者受けも大事なのだが、私は、紛争解決のお手伝いをするのが弁護士本来の仕事であろうと考えている。

 訴訟を起こせば絶対に勝訴でき、しかも回収が絶対に確実であるというような特殊な状況があるなら別かもしれないが、そうでない場合、やみくもに高圧的な態度に出て、相手方をぶん殴っておけばいいというものではない。

 紛争の相手方だって人間だ。

 人間は感情のある生き物だ。

 感情をさんざん逆なでされた挙句に、和解したいので譲歩してくださいといっても到底応じてもらえまい。

 私だって、あまりに高圧的かつ依頼者に対して無礼な書面が来た場合には、依頼者の意向を確認の上、同様の内容で打ち返すことはあるにはある。しかし、自分の方から、積極的に高圧的な行動をとることはしないように心掛けている。

 物事には、喧嘩以外の解決方法も存在し得るのだ。

 喧嘩はいつでもできる。

 しかし、一度喧嘩を売ってしまえば、他の解決の道を、極めて狭くしてしまう。

 このような簡単なことに気づけない弁護士さんがいるのは残念だ。

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