朝日新聞の社説に反論~ 2008年02月03日投稿

2020年2月21日 0 投稿者: sakano

 本日の朝日新聞に、「弁護士は頼りになるのか」という見出しで、社説が掲載されています。

 社説氏によると、富山県でのえん罪事件について、弁護士が手を抜いていたのではないかと指摘され、その背景には欧米に比べて極端に弁護士数が少ないので、質量とも十分な弁護士が必要だと結論づけられているようです。

 確かに、調査の結果弁護士が手を抜いていたのであれば、きちんと処分すべき問題だと思います。ただ、その背景として弁護士数が少ないから、弁護士数を増やすべきだと結論づけられているのは、相変わらず事実を見ていない、ご意見だと思います。特に朝日新聞の社説氏は、問題を弁護士の数の問題に結びつけたがる傾向があるようです。

 私から見れば最大の問題は、まず、自白強要をする捜査側の体質です、次に、国選弁護費用が極端に安いことが問題だと思います。 捜査側の体質は従来から言われていることなので、ここでは、後者について述べてみます。

 大阪弁護士会の旧報酬規定によると、刑事事件の弁護士費用は着手金・報酬金併せて、簡易な刑事事件は60~100万円とされています。しかし、国選事件は5~10万円程度の報酬しか出ないのです。経営者弁護士からすれば、完全に赤字の事件です。力を注げば注ぐだけ、時間をかければかけるだけ、どんどん赤字が大きくなる事件なのです。

 それなのに、弁護士の使命なんだから十分な弁護をしろと言われても、熱意は次第に失われていくのは当たり前でしょう。だって、やればやるだけ損になるのですから。

 極端な例になりますが、例えば、国から、人権擁護のために必要な広告だから、通常の広告費用の10分の1で全面広告を出せと朝日新聞が言われて、広告を出すでしょうか(マスコミの権力からの独立性についてはとりあえず考えず、純粋に経済的問題として考えて下さい)。

 仮に、人権擁護がマスコミの社会的使命だと朝日新聞が賢明にも考えて全面広告に一度は応じても、何度もそれを求められた場合、他にお金を出して全面広告を希望する顧客が待っている状態で、確実に儲からない広告の求めに朝日新聞は、やはり何度も応じるのでしょうか。

 私は疑問だと思います。

 しかし、弁護士達は、赤字に耐えつつ、自らの使命に鑑み、国選事件をこなしてきました。私も、手を抜かずにやってきたつもりです。しかし、私の周囲を見ても、若いときには国選事件に力を入れていた弁護士も、経営者弁護士になり、従業員の給与を借金してでも払わねばならない立場になると、次第に国選事件はペイしないから受けないようになっていく方が多いのです。それは、かけた時間や労力に全く見合わない報酬しか国から出ないからです。

 例えば、私が最近受任した国選事件では、私は①公判前に仮監を含めて4回接見し、②被告人が中国人であったため、強制送還の質問をする被告人のために書物を購入して調査し、③刑事記録を全て謄写して検討し、④被告人親族と打ち合わせを電話を含めて6回ほど行い、⑤傷害被害者と示談できないか交渉した上で、嘆願書を作成してサインしてもらい、⑥弁論要旨を作成する際にも、近時の収容状況を調査するために犯罪白書を調査する、⑦反省文の書き方などを被告人に教示して書かせる、など、少なくとも20時間以上をかけました。

 しかも、刑事記録の謄写は、否認事件である程度のページ数以上でないと費用が出してもらえません。よい弁護をしたければ、弁護士に自腹を切れということのようです。これで、仮に国選事件の報酬が6万円だったとすると、記録謄写に15000円くらいかかっていますし、弁護士会の5%ピンハネもありますから、おそらく実際の報酬といえるのは(調査のため購入した本代を除いても)4万円くらいでしょう。仮にそうだとすると今回の事件は時給にすると、2000円くらいです。

 しかも通常のアルバイトであれば、時給2000円なら2時間で4000円もらえますが、私のように経営者弁護士になると、事務所経費がかかります。毎月100万円以上のお金が事務所経費が、出て行くのです。その費用のかかる事務所を使って仕事をしているので、当然、時給2000円では大赤字なのです。

 どんな聖人君子であれ、やればやるだけ赤字になっていく仕事をやらされて、十分な仕事をしろと言われてもなかなかそれは困難でしょう。誰だってご飯は食べなければならないし、家族も養わなければならないからです。

 朝日新聞の社説氏は完全にこの国選弁護報酬が低すぎることを、見落として社説を書いておられます。

 もし、社説氏が国選弁護報酬が十分だと仰るのであれば、私は、「それならあなた、自分で事務所を経営しながら、一度国選弁護をやってみなさいよ」と言ってやりたいくらいです。100%ペイしないでしょう。

 ちなみに、この事件は通訳が必要な事件とされており、通訳人の方にお願いしたところ、40分で9000円の費用がかかりました。そこから計算した通訳人の方の時給は、13500円です。私の時給の約7倍です。

 これだけの負担を弁護士に押しつけながら、「金は出さんが、仕事はきっちりしろ。それがお前の使命だろう。」と言われても、熱意がわく弁護士はほとんどいないでしょう。

 それは弁護士の数が増えても全く変わらないと思います。

 だから、社説氏の主張は誤りだと私は思っています。

Follow me!