更にもっと恐ろしい朝日新聞の社説~ 2008年02月18日投稿

2020年2月21日 0 投稿者: sakano

 朝日新聞2月17日朝刊に、弁護士増員~抵抗するのは身勝手だ~と題した社説が載っていました。
 またもや、弁護士増員が必要であると一方的に決めつける内容で、あきれかえるしかありません。特に小泉政権が濫用した「抵抗勢力」を彷彿させる「抵抗」という文字を用いているだけで社説氏のこの問題に関する偏向ぶりが分かります。

 詳しい社説の内容は、朝日新聞のHPで読めるはずですので、まずその社説をお読み頂きたいと思います。

 司法改革に何も関心がない方が一読されれば、おそらくふむふむ弁護士は身勝手なんだと思わせる内容かもしれません。さすがに朝日新聞の社説氏と言えるかもしれません。

 しかし、私から見れば、これはもう悪質な世論操作(増員反対の立場の弁護士バッシング)を行おうとしているとしか思えない内容です。

 あまりに、ひどい社説だから、全てに反論していくと、とてつもない長文になりそうなので、敢えて、何点かに限定して反論することにします。

 社説氏は、「弁護士の質が低下するので増員に反対する」という主張に対して、どのくらいの弁護士の質が求められるかは時代によって違うと切り捨てます。おそらく、社説氏によると現代では弁護士の質は高くなくてもいいというご主張のようです。

 弁護士の質が相当程度高い水準に維持されなければならない理由は既に、以前のブログで書きました。結論だけ述べれば、弁護士の質を維持しないと一般の国民の方が迷惑を被るからです。それは、弁護士の仕事内容を正確に判断することは難しいし、他の弁護士の仕事と比較もしづらいので、結局、その弁護士がきちんと処理してくれることを信じるしかないことが多いのです。そうだとすれば、弁護士という以上相当程度の質が維持されている必要があるはずです。ところが、社説氏は、一般国民の方が質の低い弁護士にひどい目に遭わされてもかまわないとお考えのようです。確かに、朝日新聞は膨大な取材能力があるから、質の低い弁護士に依頼しないでしょう。しかし、一般の国民の方はそうではありません。一般国民のためにこそ、弁護士の質の維持は必要不可欠なのです。

 ところが、実際に司法試験合格後に合格者が司法修習を受ける、司法研修所の教官によれば、最も優秀な学生が集まったとされる法科大学院第1期生(新60期)すらも、「全般的な実体法の理解が不足している。単なる知識不足であればその後の勉強で補えると思うが、そういう知識不足にとどまらない理解不足、実体法を事案に当てはめて法的な思考をする能力が足りない」、そういう修習生がいると酷評されています。

 あとで勉強したくらいでは、とても補えないほどの理解不足・法的思考能力不足の法律家を大量生産しているのが法科大学院なのです。
 私は朝日新聞が、法科大学院の記事を書く際に、ほとんどと言っていいほど「質の良い(優秀な)法律家を育てるための」と枕詞をつけていたことを覚えており、朝日新聞を読んでこられた方は、無意識のうちに法科大学院は優秀な法律家を育てていると思いこまされているかもしれませんが、実際の結果は惨憺たるものです。最も優秀な第1期ですら、この有様なのです。その後は、学生のレベルがダウンしていきますから推して知るべし。法科大学院はすぐにでも廃止しないと、えらいことになるはずです。

 とはいえ、一般の国民の大多数が、藪医者のレベルでもいい、知識不足でもいい、とにかく弁護士に依頼したいというのであれば、朝日新聞の主張も分からないではありません。しかし、一般の方が弁護士に依頼することはそれこそ一生に一度くらいしかない場合がほとんどです。例えていえば、手術を受けるようなものかもしれません。その大事な手術を、藪医者かもしれない医師に任す人がいるでしょうか。命に関わるのですから、出来る限り質の高い医師に執刀してもらいたいのではないでしょうか。そのときに誰が藪医者か分からないとしたら、どうなるでしょうか。おそらく、多くの犠牲が出てしまうのではないかと思います。しかし、逆に、医師免許を持っている者は、全員が相当程度の質を維持しているのであれば、ずいぶん事情は異なってくるはずです。
 また一般国民のニーズが、本当に、質が低くてもいいから弁護士にとにかく依頼したいというのであれば、弁護士は引く手あまたであり、就職難(後述)や、食えない弁護士が発生するはずがありません。
 根拠もなく勝手に、国民のニーズを仮定して、その誤った仮定の下に社説を組み立てているのが、今回の社説のようです。

 次に、弁護士の就職難は疑問だという点です。社説氏の根拠は弁護士白書の弁護士年間所得平均です。一見説得力がありそうです。しかしここも、社説氏のトリックが潜んでいます。

 まず、就職難かどうかは、昨年就職活動した60期の弁護士に聞くか、現在就職活動中の61期の司法修習生に聞くか、日弁連に現在の就職希望者と求人数を問い合わせれば分かるはずであり、それ以外に就職難か否かを判断する根拠はないはずです。例えば、大学生が就職難かどうかを論じるときに、大企業の社員の平均年収が中小企業より高いので就職難ではないと論じたら、見識を疑われると思います。

 この点だけからも、社説氏のトリックが明らかだと思われます。仮に、社説氏が故意に結論をねじ曲げるためではなく、真剣に就職難と平均所得に関係があると考えているのであれば、論理的思考すら出来ない方が社説を書いておられることになりましょう。そんな人物に会社が公表する意見を書かせる朝日新聞の見識すら疑われることになるでしょう。

 さらに、弁護士白書の年間所得は一部の弁護士しか回答していないアンケート結果に基づくものであり、すべての弁護士の所得を反映していません。また、厚労省賃金構造基本調査に基づく統計では弁護士所得は772万円との見解もあります。
 そもそも平均所得という概念を持ち出すのがおかしなことです。仮に、9億1000万円の所得がある新聞記者1名と、1000万円の所得がある新聞記者9名がいた場合、この10名の新聞記者の平均所得は1億円になります。このような場合に、新聞記者の平均所得は1億円なのだから、一人2000万円を慈善事業に寄付してもいいだろうと言われたら、到底納得できないでしょう。このように、そもそも使うべきではない概念を用いて自説を補強している点からも、社説氏の強引かつ杜撰な論理展開がお分かりになると思います。

 次に弁護士過疎の問題です。社説氏は、「弁護士過疎の問題を解決してから増員反対を言え」と主張されます。しかし、翻って考えると、弁護士過疎の問題はそもそも弁護士会が解決すべき問題なのでしょうか?

 再度医師の例えを用いますが、無医村が多く存在したとしても医師や医師会はなぜ、非難されないのでしょうか。社説氏の論理から行けば、診療報酬の値上げをいうなら、まず無医村の問題を解決しろということになりはしないのでしょうか。

 それでも日弁連・弁護士会は弁護士過疎対策に相当程度のお金を割いています。それらは個々の弁護士が支払う弁護士会費から捻出されているはずです。医師や医師会がお金を出して無医村対策をしたでしょうか。勉強不足の私はそのような事例を知りませんが、もしそのような対策を医師会がしていたら、誉められてしかるべき行為でしょう。医師や医師会がお金を出すなどして無医村対策に努力していながら、なお無医村が生じていたとしても、それだけで非難されるべきなのでしょうか。そうは思えません。

 しかし、それが弁護士の過疎問題となると何故、そこまで社説氏に批判されなければならないのか全く理解が出来ません。

 さらに、社説氏は、裁判員制度の導入や被疑者国選弁護の拡大がなされるので、弁護士不足になるはずだと述べています。これに関しても、生活できるだけの報酬を裁判員裁判や被疑者国選弁護で出してくれるのであれば、一気に解決します。
 被疑者国選弁護などの範囲が拡大しても、赤字でやらなければならない仕事(持ち出しでやるボランティア)が増えるだけです。
 時間と手間をかければかけるだけ赤字になる、つまりほぼ確実に損をする仕事を弁護士に押しつけ、その赤字の仕事を増やしておきながら、弁護士の生活は弁護士が勝手に努力しろでは、筋が通らないでしょう。

 例えば(本当は1回だってやるとは思えませんが)朝日新聞が、どうしても人権擁護に必要だから、年3回は特定の日の新聞の広告欄を全て、通常の10分の1の値段でやれといわれて、新聞社の使命として仮にやっていたとします(報道の独立性はこの際考えずに、純粋に経済的問題として考えて下さい。)。
 新聞社の使命だから、その回数を年10回にする、今までのような収入は見込めなくても新聞社のやるべき仕事だろうと言われて、朝日新聞は黙って従うのでしょうか、社説氏は黙っているのでしょうか。

 最後に、社説氏は司法改革は市民のためであり法律家の既得権のためではない。と結んでいます。社説氏のいう法律家(弁護士)の既得権とはいったい何なのでしょうか。

 弁護士の法律事務の独占については、近時、司法書士の簡裁代理権を認めたり、サービサー制度、弁理士の特定訴訟事件代理権、行政書士の書類作成代理権など、完全に崩壊しつつあります。弁護士の法律事務独占を既得権というのであれば、むしろ弁護士はいくつも既得権を放棄してきています。弁護士の数が増加しつつあるのにもかかわらず、です。

 安定した収入を得られる地位という意味であれば、そんな既得権は、弁護士稼業のどこを探したってありません。弁護士には、扶養者手当、住居手当等も一切ありませんし、自分が病気してしまえば何も収入が得られません。しかも、収入がない月であっても事務所を構えている以上は、毎月事務所経費が出ていくのですから、大変なのです。退職金制度もないし、もちろん年金は国民年金です。従業員は政府管掌保険で厚生年金であっても、自らは国民年金だけです。従業員の社会保険料の半額を負担させられるのに、自らには極めてわずかな保障しかありません。

 社説氏が何をもって、法律家の既得権というのか、私には理解が出来ません。使用する語句の意味を明確にしてから論じてもらいたいと思います。

 論じる際には、用いる言葉の意味を明確にしてから論じるべきはずだ。その原点を忘れてもらっては困る(朝日新聞社説調)。

 他にもたくさん言いたいことはありますが、これくらいにしておきます。

 ただ、この社説は全く思いこみから事実を確かめずに書かれたものである上、論理的にもおかしな点が多いので、私としてはわざと増員反対の弁護士をバッシングするために書かれたものだと考えています。もし本当に社説氏が弁護士バッシングの意図でなく書かれたのであれば、あまりにも能力のない若しくは思いこみだけで社説を書かれる社説氏であり、朝日新聞の見識を疑わざるを得ません。

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