新司法試験考査委員へのヒアリング(商法)、質疑応答~ 2008年02月27日投稿

2020年2月21日 0 投稿者: sakano

 民事系科目の最後は商法です。

 商法の新司法試験考査委員は、次のように述べている部分があります。

 ①比較的オーソドックスな問題を中心に問うものであったため、両設問とも解答のポイントを極めて大きくはずれているという答案はあまりなかった。

→そりゃそうでしょう。あの問題で中心論点をはずすようでは、法科大学院で寝ていたとしか思えません。

 ②全体的な答案の水準については、出題者の期待に達していたとは言えない、あまりレベルは高くはないという意見と、それなりの水準には達しているのではないかという意見が分かれていた。それなりの水準に達しているというのは、いい水準にあるというよりは、昨年の経験なども踏まえて同じくらいのレベルだろうということであり、我々が想定した水準と大きくはずれたものではないということで、その程度のものである。

→それなりの水準が昨年と同程度というのであれば、問題ですね。昨年度の合格者でも、あとで勉強するくらいでは追いつけないほどの基礎的知識不足の者がいると指摘されているのですから。

 ③議論の幅が非常に狭い、一つの点だけしか論じない、そういう答案が結構あるのは未習者の影響かもしれないという意見が若干あるものの、全体的には、未修者が受験したことの影響については、商法分野ではハッキリしないという意見が一般である。

→全くの未修の方が3年で基礎的知識と要件事実の基礎、リーガルマインドが身に付けることは大変です。よほど頭の良い人でないと困難でしょう。既修者は2年の法科大学院ですから、単純に考えれば大学法学部の4年間分の勉強を1年でやらなければならないからです。

 ④本件問題で、企業提携とシナジーの分配であるとか、ファイナンスの側面の知識もある程度織り込みながら議論している答案も少数ながらあったわけで、それなりに法科大学院における商法科目の教育効果が上がっているという意見がある一方で、昨年もそういう傾向があったと思うが、新株発行無効事由とか取締役の任務懈怠責任、経営判断原則などの抽象的な法的命題はそこそこ書けているとしても、具体的な事実関係にそれらを当てはめる際に、事実関係の特質を踏まえた検討が十分にされているかについては、先ほどご指摘があったとおり、まだまだ改善の余地が商法に関してもあるというのが圧倒的な多数意見であった。

→法科大学院の教育効果であれば、相当多数者がシナジー、ファイナンスなどの知識を織り込んで答案を書いてもおかしくありません。むしろ、企業などでの実務経験者の方が書かれた答案だと考えるのが素直でしょう。そもそも、事実関係の特質を踏まえた検討を十分できる法律家を養成するのが法科大学院ではなかったのでしょうか。それもできていないのでは、問題ありでしょうね。

 ⑤例えば非常に高額の賠償責任があるという結論を、ごく簡単に下してしまっているものがあり、このようなもので実務家になるのはいかがなものかと思われる。つまり検討すべき事が検討されていない。あるいは、もうちょっと考えればいろいろな解決の手段があるのに、そこに思い至ろうとしない。こういったことが問題ではないかという指摘もあった。

→そのような受験生は、まさか合格させていないのでしょうね。合格率がそこそこ高いので、私としては心配です。

 続いて質疑応答です。

①新司法試験委員から、「旧司法試験では問題文も短く、金太郎飴的といわれる論点丸暗記のような答案が多いのが問題になっていたが、新司法試験の問題は画期的な改善がなされている」と自画自賛した上で、「法律の基本をしっかり習得した上で、更に具体的事実の当てはめ応用ができる能力が、法科大学院で養成できているか」との質問が考査委員になされました。

→無論新司法試験委員ですから、旧司法試験に批判的な立場の方のご発言でしょう。旧司法試験の答案が金太郎飴的答案というのは、よく使われる表現ですが、それは旧司法試験の試験問題に対する答案としては、やむを得ない点はあったと思います。同じ問題にいくつも違う解答がある方がむしろおかしい場合もあるはずです。しかし、受験経験者として断言しますが、丸暗記で合格できる試験では絶対にありませんでしたし、その中でも歴然と実力差によって優劣はつきました。

・理想と現実にギャップがあるのは確かである。(中略)工夫はしているしある程度の効果は上がっていると自負もしているが、一方でちょっと難しい試験をすると、私の教えている法科大学院の学生でも半分くらいの学生はよいが、それよりすこし下になると大丈夫かなと思う部分は正直ある。

→だったら何故、半分以上の院生が法科大学院を修了して、法務博士になっているのでしょうね?恐ろしくないのでしょうか。また、理想と現実にギャップがあるということは、既に理想の実現が困難ということではないのでしょうか。

・商法についていうと、私の教えている法科大学院では法学既修者で会社法の必修は2単位だけである。そこで何が教えられるかというあたりになると、担当していて限界を感じるところである。(中略)具体的な事例に即することにしても、必ずしも紋切り型の答案ばかりではなく、ある程度は事実関係を見ようとしている努力の跡はうかがえると言えるようになっているのではないかと思う。

→豊富な事実や情報が問題文に出るようになったのですから、当然でしょう。それより、あの膨大な会社法について、わずか2単位だけで何が教えられるのでしょうか。結局受験生の自助努力に任せているのではないでしょうか。

②未修者が初めて新司法試験を受けた点についてはいかがか?とも質問がありました。

・(未修者の)1割から1割強ぐらいの人は、法律以外のことをやってもおそらくできたんだろうと思われるような極めて広く深い理解力を持っていて、この人達は本当に純粋な未修者であっても3年間で既修者に追いつくし、一部の既習者を追いこすところまできている。ただ、やはり法律の議論ないしは、法律の理屈の立て方に慣れるのに少し時間のかかる人が全体としては多く、3年生になってもどうも基本的なところに弱みがある。また1割から2割くらいは、進路を間違えているのではないかといわざるを得ない人が混じっており、それが既習者よりは数が多いという印象である。

→未修者は法律の基本的な部分で弱い方が多いそうですが、それをきちんと克服した人を修了認定しているのでしょうね?進路を間違えたような人を修了認定していないでしょうね?修了率の高さから危険を感じます。

③今年の試験の平均点が低いが、未修者受験の影響はあると思うか、という質問もありました。

・今年の問題は意識的に基本を聞くということにしているため、問題の難易度は下がっている。にもかかわらず、実感として、出来は去年より少し悪いという実感を持っている。(中略)未修者に基本的な理解が十分ではない人が相対的には多いと思うので、結果的に全体の答案の出来が悪くなっているということに結びついている可能性は高いと思う。

・問題の難易度はそんなに変わらないのではないかと思う。そうだとすると平均点が下がった要因として、そういうこともあり得るのではないかと思う。

・何とも言えない。問題内容も違うのでなかなか比較は難しいと思う。

→基本的な理解が十分でない者を修了させていることは、これらの発言で明らかです。全体として合格者のレベルダウンが生じていることも明白ですよね。

④旧司法試験の時には、答案がみな紋切り型であり、その出来映えも良くないということが指摘されてきていたが、新司法試験になってその点はどうなのか。(中略)法科大学院教育の成果は徐々にでも上がっているという見方ができるのか、という質問もあります。

→これも、新司法試験委員の発言であり、旧司法試験に対する批判的立場の方の質問です。どなたか知りませんが、旧司法試験を採点したことがある方かどうか疑問です。なぜなら、旧司法試験と新司法試験では問われている内容が異なるのに、無理矢理同じ土俵にのせて比較しようとしているからです。考査委員から法科大学院と新司法試験を遠回しに批判されて、ヒステリックになっちゃったのではないかと思ってしまいます。この質問に対する考査委員の返答は次の通り、冷静です。

・論点を拾い上げるだけではなく、さらに、事実への当てはめを求める部分は旧司法試験ではあまりなかったので比較できない点があるが、数はそれほど多くはないものの、現に、事実への当てはめの部分についてきちんと書いてある答案もあるので法科大学院教育の成果が出つつあるのではないかと思う。

・旧試験と新試験では、問われている内容がすこし違うので明確に申しあげられないが、今高い水準にまでは届いていないのは確かである。しかし、だからといって全く成果がないかというとそうではなくて、少なくとも法科大学院の学生は、事例に即して自分で考えて答えを出さなければならないという意識は十分できつつあると思う。

→いずれも、事例に即して考える傾向が出てきたことは、法科大学院の成果であるとお考えのようです。しかし私の意見は違います。短い問題文で論点を拾い出させ、基礎的知識と論理力を試していた旧司法試験から、豊富な情報を与えて事案に即した解答を可能にした新司法試験へと、試験問題自体が大きく変わったからです。受験生は問題に応じた答案を作成します。情報を豊富に与えられ、その解決を求められれば当然事例に即して自分なりに考えて答えを出す方向に解答は傾くでしょう。

 しかし事案に即した解答を書けるかという以前に、大きく問題視されなければならないのは、法的解決を行う大前提である基礎的知識が不足している合格者が増加していることです。この点に関して新司法試験委員はなんら深く指摘することもなく、対策を取ろうともしていないようです。

 これまで、民事系科目の新司法試験考査委員のヒアリングを見てきましたが、思った通り、法科大学院制度は相当やばいのではないかというのが私の感想です。

 時間があれば、刑事系についても、新司法試験考査委員のヒアリングを検討してみたいと思っています。

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