「ゆき」 斎藤隆介著~2007年07月13日投稿  

2020年2月17日 0 投稿者: sakano

 天上に暮らし、天と地を真っ白な雪で清める雪の「じんじい」と「ばんばあ」。しかしこの頃は、潔白な雪で下界を清めても、雪はたちまち真っ黒になってしまう。下界で悪いことが行われているからだ。「じんじい」は「ばんばあ」との間の娘である雪ん子を、下界におろし下界の掃除をさせると言いだした。もしも下界の汚れに負けてしまえば、雪ん子は消えてしまう。下克上時代でもあった室町時代末期、野盗や領主を名乗る地侍、あくどい地主、等がはびこる東北の農村を、雪ん子は、村の地面いっぱいに汚れないきれいな雪がつもる世界に変えていけるのか。そして、外の敵がいなくなったときに初めて分かる心の中の敵に打ち勝てるのか。

 斎藤隆介って誰?と思われる方がほとんどかもしれません。しかし、絵本の「モチモチの木」、「八郎」、「三コ」、「花さき山」に「ベロ出しチョンマ」の作者である事までお伝えすれば、誰でも一度は読んだことのある本の作者である事に気づかれるでしょう。

 近代は人の自我の確立の時代でもありますが、近代から現代に至るまで、自我の確立・主張を重んじるばかり、人は、優しさや、思いやりを次第に失っていきがちであり、人として大事なことを失いつつあることにすら気づいてこなかったのかもしれません。それは、自分の心の中にある敵に知らず知らずのうちに屈してしまっている状態とも言えると思います。作者は農民達の心の中にある敵を「神人」として表現し、「ゆき」と対決させます。そして、作者はあとがきで、「心の中の敵とたたかうことは、ほんとうににむずかしいものですね。でも、それとたたかって勝たなければほんとうに勝ったということはできません。ゆきは、勝ったのでしょうか、まけたのでしょうか。」と読者に問いかけます。今から40年ほど前に書かれた作品なのですが、競争社会化が著しい現在では、より重い問いかけのように思えます。

 他人の苦しみや痛みを思いやり、理解し、そしてその痛みや苦しみを黙って見逃すことが出来ない人物を描いた短編を数多く書いてきた斎藤隆介が、初めて書き下ろした長編童話がこの「ゆき」です。滝平二郎の切り絵による挿絵も素晴らしく、絶版となっているのが非常に残念です。図書館等にはあるかもしれませんのでもし見つけられたら、童話であるというだけで敬遠せずに、一読されることをお勧めします。

ps 個人的には宮崎駿さんに映画化して頂けたら、すごいのに・・・・と思ってしまいます。

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